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『タイトル未定』

第5話

「眠った、な…」

「そのようですね…」

夜、月が照らす玄関口、シンと静まり返った静寂の中で師弟の会話だけが小さく響く。

「負の感情が無い状態では睡眠薬までは察知出来ないか…」

「もしも薬が効かなかったらと思うと、ゾッとします…」

男はそう言いながら顔を顰める。
長年師匠の元で修行をしてきたから分かる。先ほどの模擬戦、師匠は間違いなく全力で戦っていた。殺すつもりで、加減などまるでせず、魔力も使い切る勢いで戦ってようやく互角。
師匠は寝たふりを警戒して遠くから声をかけたが、どうやら本当に気絶していたらしい。あの時に殺しておけば…と思わなくもないが、自分が同じ状況になればやはり警戒していただろう。

「何にせよ、これで依頼はこなせる。あれで魔法初心者だってんだから反則だよなぁ」

女性は自嘲気味に笑いながら、鞘から剣を抜いて月灯りに照らす。

「兄を追放した帝国の思惑に乗るのは癪だが、あれは帝国とかそんな括りの敵じゃないな。言うならば全人類の敵だろう」

あれをこのまま放置すれば必ず災厄が起こる。
魔王の前では魔王にも神と精霊の加護があるだの、魔王の力を制御する術を身につけるだの言ってみせたが、そんなものはフリだ。
加護は…、もしかしたらありえない話では無いかも知れないが、今の私にそれを調べるだけの力はない。
そして魔王の力の制御など論外だ。仮に出来たとしてもあれだけの力。出来るまでの、出来なかった度に起こるであろう災厄を考えれば、今殺しておくのが最善だろう。

「師匠の兄様の遺言はよろしいのでしょうか」

「いい、何処の世界にいつ爆発するかも分からない原子爆弾と一緒に暮らすバカが居るんだよ。どう考えても精神が狂ってるだろ」

女性はため息をつきながらも続ける。

「まあ、兄のその優しさのおかげでこれまで爆弾を爆発させなくて済んだ可能性は十分あるんだがな。だが、私には無理だ」

剣の点検が済んだのだろう。
女性は抜き身の剣を持ったまま魔王の元へと歩くのだった。


ズバッ、
この日、魔王と呼ばれた少年は死を迎えた。



−−−−−−50年後

「むかーし、昔

「今から50年ほど前の実話。

「ある小さな村に1人の魔王が誕生しました。

「その魔王は目が黒いせいか人々から迫害されていました。

「同じく当時帝国から追放されたある宮廷魔術師は似た境遇の魔王を憐れみ、育て始めました。

「時が過ぎ、成長した魔王の元へ勇者が現れました。

「勇者は言いました。

「お前に恨みは無い、だがお前が生きていると困るんだ」

「勇者は自らの優しさを振り切り、涙ながらに魔王を討伐しました。






担当:しょうへい



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