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『タイトル未定』

第6話

けたたましく鳴り響く警報。慌ただしい足音。
そんな喧騒の中を走る2つの影があった。

「ったく、何が嬉しくて帝国の城なんかに忍び込まなきゃなんねぇんだよ。」

影の1つ、小柄な女は気だるそうな声でそう言った。

「師匠が金に目がくらんで内容も聞かないと二つ返事で依頼を受けるからじゃないですか。」

もう1人、大柄な男は迫ってくる敵をなぎ倒しながら言った。
その間に小柄な女は魔法を放ち、頑丈な扉を爆散させる。

「んで、その依頼っつーのが帝国のこの城で処刑される予定の赤ん坊を救えって、依頼内容も赤子を処刑する帝国もイカれてんじゃないのか?」

「その依頼を引き受けた僕たちも相当イカれてますけどね。」

男はそう言って悪態づく。

「お前も言うようになったな。ジジィのくせして!!」

「ちょ、ちょっと、それはヒドいんじゃないですか?」

「うるせぇジジィにジジィっつって何が悪い!!」

ジジィというほどではないが、大柄な男は見た目に50〜60歳くらいには見えた。そんな成りで馬よりも早く走り、敵を2〜3人まとめてなぎ倒す姿は少し異常にも見えたが。

「僕がジジィなら師匠はどうなるんですか!!」

対する小柄な女は歳のほどでいうと30手前か、もう少し若いかといったような見た目であった。

「アタシを見て誰がババァだと思うんだい?そんなことよりもうすぐだ。急ぐよ。」

そう言うと女は更にスピードをあげ走り去る。

「あれで80歳ってんだから反則だよな…。」

男は一人つぶやくと、女の後を追った。

「さて、この広場を超えたら赤ん坊のところまで一直線なわけだが…。」

男が追い付くと女は城内にぽっかりと開けた広場の端で数百人の敵兵と対峙していた。多対二、通常ならば勝ち目など皆無である。

「師匠、僕の1発で…「よし、お前が1発かまして道を作れ。私がそこから駆け込む!後は任せたぞ!!」

「そうしようと思ってましたけど、先に言われると何かすげー腹立ちますね。」

そう言うと男は詠唱を始める。

「我は願う、炎よ、燃え上がれ。」

男の右手から業火が吹き出す。それに気付いた敵兵が魔法を放たせまいと一斉にこちらに向かって駆けてくるが、それを見た男は今度は左手を目の前にかざすと新たに詠唱を始める。

「我は願う、水よ、我らを守る壁となれ。」

するとこちらに向かう敵兵の眼前に水の壁が出来上がる。これに敵兵は度肝を抜かす。ここまで大きな水の壁を創り上げる魔力もさることながら一人で2つの属性の魔法を使うなど誰も想像ができなかったからだ。この世界で魔法は1人1属性が常識だった。

男は更に戸惑う敵兵達のど真ん中に、先ほどから練り上げ続けていた業火を放つ。業火は一直線に敵陣の奥深くまでを全て焼き尽した。

「でかした。それじゃ、後は頼むわ。」

その機に女は魔法で焼き尽されてできた道を高速で駆け抜ける。誰の目にも止まらず、誰に気付かれることもなく、女はその場から姿を消した。そして、行く道に立ち塞がる数人の兵士を難なく倒すと処刑される赤ん坊が幽閉されている部屋へと入る。

「これから処刑されるってのにスヤスヤ寝てやがる。ったくこんな小さな赤ん坊を処刑するなんて帝国は何を考えているのやら。」

そう言って女は赤ん坊を抱き上げる。そのため赤ん坊は目を覚まし、女と目を合わせる。
女はその赤ん坊の顔を見た瞬間、背筋が凍り付くのを感じた。

「こ…こいつは…。」

一方、男はものの数分で数百人いた敵兵を壊滅状態まで追いやった。そしてすぐに女の後を追い、赤ん坊が幽閉されている部屋へと転がり込んだ。そこにいたのは赤ん坊を抱き上げたまま固まる女の姿だった。

「なあ、運命ってやつはいつも残酷だよなぁ。」

「何を訳の分からないこと言ってるんですか、師匠。その赤子を連れて早くここから出ましょう。」

「いやぁ、つくづく思うよ。人生ってのはほんと思い通りにはならない。」

そう言うと女は男に抱き上げた赤ん坊の顔を見せる。その瞳は何者をも吸い込みそうなほどの漆黒に染まっていた。

「50年前にこの手で殺したはずの魔王を、今度はこの手で救い出すことになるなんてな…。」

 




担当:会長



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