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『タイトル未定』

第9話

「「お帰りなさいませ!フォルネウス様!」」
屋敷に大きな2つの声が響き渡る。

「ああ、すまない。」
フォルネウスと呼ばれた魔族の男は2人のメイドに声をかける。
2人は正統派と言えるであろうメイドの格好をしている。1人は頭に鹿の角が生えており瞳の色は茶。もう1人は背に鷲の羽根が生えており瞳の色は緑。2人とも幼く小柄な容姿で笑顔が眩しい。

「前もって伝えておらず申し訳ないが、今日はここで一泊させてもらう。こちらは魔王様の加護を受け継いだ赤子、と、護衛の人間2人だ。」

「私らの扱い雑だな?」

「失礼、お名前を伺っておりませんでしたので。」

「名乗るほどでもねーよ。」

「…フォルネウス様、魔王様というのは…?」

2人の会話を遮るように鹿の角が生えたメイドが尋ねる。フォルネウスの背中に背負われていたはずの魔王は忽然と姿を消している。

「ハーーーーッハッハ!愚かであるぞ諸君!魔王様は今や私の腕の中に!!!!」

そこには居るはずのない白衣の男が宙に浮き、魔王を抱えて見下ろしていた。

「おいお前、いつの間に入って来たんだァ?」

女が両手を前に出し、水の弾を撃ち始めようとしたその時、

「ムルムル、フルフル、侵入者退治の時間だ」

「「仰せのままに!」」

2人のメイドは目にも留まらぬ速さで白衣の男に飛び掛かり、隠し持っていた糸で縛り上げてしまった。その姿はまるで大鷲と大鹿そのものであり、そして、終始満面の笑顔だった。
縛り上げられた白衣の男は地に叩きつけられる。

「こんなに呆気なくやられちまうモンかねぇ?それで、お前さんどうやって入り込んだんだい?」

「お前…俺がわからないのか。」

白衣の男はこれまでの口調と一変し、落ち着いた初老の声で話し出す。

「あ?解るも何も…ああ、なるほどね。自分の年齢を忘れていたよ。兄貴。」

「師匠、もしかして…あの時の…魔王が訪ねて来た時の」

大男はふと50年前のことを思い出す。

「そうだ。あの時魔王の力が覚醒し、俺は自分の身を守ることで精一杯だった。そしてあいつは『土葬』をしてくれた。」

「土の精霊の祝福…」

大男が納得したように呟く。

「死ぬとは思ってなかったさ。アンタが勇者側につくとも思ってなかったけどな!」

「仕方なかった。目覚めてすぐに見つかってしまい、こうするしかなかった。とりあえず俺は生きてる。それだけを伝えに来た。」

そう言うと白衣の男はトプン、と溶けるように消えた。


しばらくそのまま呆気にとられていたが、突然女の腹が空腹を告げる。

「それでは食事にいたしましょう。食事の支度はできているか?」

「「もちろんでございます」」

2人のメイドに案内され、燭台が沢山置かれている長テーブルのある食堂へと移動し、席につく。艶々に磨かれたナイフやフォークが屋敷の立派さを物語っている。

「お待たせいたしました、前菜でございます!ケルベロスのホホ肉のキッシュと幼マンドラゴラのサラダでございます!」

「申し訳ない、えー…鷲の方。」

大男が言うや否や羽根の生えたメイドは眼を見開き、
「わたしはグーリーフォーン!何度言ったら皆解ってくれるのかしら!それに私の名前はムルムルよ!」

と、怒り出した。プリプリと怒る姿はまるで子供のようだ。

「ムルムル、お客様よ。やめなさい。」

鹿の角のメイドはキッと鷲の羽根のメイドを睨んだ。


「なぁに〜?もっのすごい賑やかじゃな〜い!」

突然、ハスキーと言うには低すぎる、しかしテンションは物凄く高い…つまりオカマな声をした赤い長髪の美男子が食堂のドアを開け、ひょっこりと顔を出す。

「ああああああァン!フォルたんじゃな〜い♡ いつ帰って来てたの〜ン?」

その男は魔族の男のそばまで駆け寄り、顔を近づけながら話す。

「先程です。」

魔族の男は右手でその男の顔を押しのけながら答える。

「あァン素っ気ない返事がワタシのハートをくすぐるわ〜ン♡」

赤髪の男はクネクネと腰を振りながら喜んでいる。

「皆様長旅でお疲れです。静かにして頂けませんか?」

赤髪の男は大男に抱かれた赤ん坊を見るや否や、

「誰が来てるのよ〜ン?あらっ!かンわいい〜じゃな〜い、この子誰の子?もしかしてっ!フォルたんの!?」

と、おめでたい勘違いを始める。

「すみません、こちらのうるさいのはベリト、火を使わせると右に出る者は居ません。」

魔族の男は無視して皆に赤髪の男の紹介をする。魔王は赤髪の男と目が合う。

「そうよ〜ン♡よろしくねン♡あららららら!この子、魔王の子ね!名前はなんていうの?」

「確かにお聞きしておりませんでした。」

「私らも知らんな。」

「あらっ!じゃあこの子名無しなのねン、フォルたん名付け親になっちゃいなさいよ!この子ね、こう見えて名付けの天才なのよン♡魔族は皆この子に名前をつけてもらうんだからン♡」

「恐れ多いです…。私なんかでよろしいのでしょうか…。それでは今晩、一晩だけ考えさせてください。」

そう言うと、魔族の男は食堂を出ていった。
食事はメインディッシュが来るかというところであった。
 




担当:ティンカ



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