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『タイトル未定』

第11話

「おはようン?いい名前は思いついたかしらン」

「それが…、一晩中悩んだんだが、思いつかなかった…。すまない…」

朝、魔族の男の部屋に赤髪の男が訪ねていた。

「あらあら、フォルたんにもそういうことがあるのねん」

「お前が何で私の事を名付け親の天才だなんて思っているのか知らないが、いや、分かってはいるのだが…、あれは、偶々だ」

「そんな~ン、私の名前は偶々でつけられたっていうの~?」

赤髪の男はすすり泣く、正確にはすすり泣く真似をする。

「そうだ、それと勝手に部屋に入って来るな」

ガッ!
泣き真似をしていた赤髪の男を部屋の外へ蹴り飛ばしてドアを閉め、涼しい顔で外出用のローブを羽織った。

「あーン、いたいー、でもフォルたんの為にワタシ、耐えてみせる!」

訳の分からない決意の声がドアの向こうから聞こえる。
大して気にした風もなく、魔族の男は涼しい顔で腕時計をつけた。
そして、
ガッ!

「い、痛い…」

必要以上に勢いをつけてドアを開けると、そこには額を抑える赤髪の男がいた。

「ああ、まだいたのか」

魔族の男は何でも無いように言った。赤くなった額から手を離し、赤髪の男は言う。

「いたわよ!て言うかワザとでしょ??ワザとよねン????」

「良く気づいたな」

魔族の男はそれだけ言うと廊下を進む。
もう少しで一階への階段へ差し掛かるところで後ろから慌ただしく駆けてくる音が聞こえた。
後ろに振り向き、ここまで全力で走って来たであろうムルムルとフルフルに向き合う。

「「大変です!魔王様が攫われました!!」」

魔族の男は涼しい顔をして、内心焦るのであった。







「君には嘘をついていたんだ」

空と地面と川と、どことも知れない世界で神は言う。

「実はね、君を殺したのはあの女勇者じゃなかったんだ」

「どういうこと?」

唐突に始まった過去の話に疑問を持ちながらも、かろうじて質問を返す。

「端的に言えばね、君は師匠の妹を頼った。そして、師匠の妹に殺された」

「なぜ?」

「それは僕にも分からないさ」

神は分からないと言うが、実際は違うことをオレは知っている。
口は割らないだろうから無駄なことはしないが。

「君は、君を殺した師匠の妹に復讐がしたいかい?」

そう問われて、オレの中の魔王達の意思を聞く。

「復讐したいな、ああ、殺したい」

「それは、困ったな。まあ、いいか」

本気で困ってそうな顔をしているが、大して困ってないことをオレは知っている。
それでも一応は聞いてみるが。

「何が困るんだ?」

「特に困りはしないよ。僕は」

「……」

「まあまあ、そんな面倒そうな顔しなさんな。ではそろそろ本題に入ろうと思う」

続けて神は言った。

「君、生き返ってもらうから」

オレは人の賑わう街にいた。







近隣の国々の中でもひと際広大な面積を誇る帝国には、その面積に比例してこの時代で最も大きい帝都がある。帝都はまず外周をぐるりと防壁が囲う、その中に城下町があり、さらにその中に城壁があり、中心部には城が建っている。
午後10時、城は夜間にも関わらず昼間かと思わせるほどライトアップされていた。

「何を言うておる」

「はっ!もう一度申し上げます!城内に侵入者が一人、徒歩にて玉座へ向かって進行中です」

「何を言うておる、我が城に一人で堂々と侵入してくるアホウがおるはずなかろう?」

兵士は必死になって皇帝に報告するもまるで見向きもされない。
そこに一人の男が現れた。男は黒いローブを着込み、フードを目深にかぶっていた。

「その兵士の言う通りなんだがな」

「何奴っ??」

皇帝を守るために配置されているであろう騎士達が一斉に剣を構える。

「おいおい、ついこの間も侵入されたって聞いたんが、もしかして帝国には危機感ってものがないのか?」

「ふん、あの魔王の赤子のことか」

苦々しいといわんばかりの表情で皇帝が言う。

「あのアホウどもでも魔王の赤子を回収した後は一目散に逃げおったのだがな」

「つまり、相対していれば負けることは無いと?そうか、なるほど」

男は頷き納得していた。

「じゃあ、死ね」

次の瞬間、皇帝の周りに黒い矢が無数に生成され、皇帝目掛けて突き刺さった。

「宣言する!帝国法第1条により、今日からこのオレが帝国の皇帝だ!文句のある奴はオレに挑んで死ね」

フードを脱ぎ宣言する。この日、黒髪、黒目の青年が皇帝となった。







新しい魔王が産まれたと聞いた時は驚いたが、よくよく考えればありえない話でもない。
そしてこの国は聖教国との取引の結果、その魔王を公開処刑しようとしたらしい。
オレには全く持って意味が分からんが、まあそのうち聖教国を潰しに行った時にでも聞けばいいか。
コンコン

「入れ」

「浴場の準備が整いましたので案内いたします」

一人のメイドが入室するなり用件を伝える。

「ああ、すまんがこいつも一緒にいれるから赤子用の風呂道具も用意してくれ」

「承知いたしました、少々お待ちください」

しかし自分以外にも魔王が存在するとはな…。そうなると勇者もいる可能性があるのか。
以前のオレは弱かったが、神と過ごした50年で随分とオレも変わっている。
オレはまず負けることは無いだろうがこいつは違う。
拾ったからにはオレが一人前に育ててやろう。

「お待たせいたしました」

「おお、では行くか」

廊下を少し進んだところでメイドが尋ねる。

「陛下、本当にこの子と一緒に浴場へ行かれるつもりでしょうか?」

「…何が言いたい、まさかこの赤子が黒目であることが気に入らんか?」

メイドは少し焦った様子で答える。

「とんでもございません。今後、陛下と同じ黒髪、黒目が迫害の対象になるはずもございません」

「そうか」

やはり潰すか聖教国と考えながら、皇帝は一言だけ言い先を促す。

「この赤子は女の子、であればいくら陛下とはいえども、嫁入り前の皇族の女子と入浴するのは如何なものかと…」

「なる、ほど…。それは確かに問題、なのか?」

「問題です」

赤子の入浴をメイドに任せることになった。







「あははっ」

空と、地面と、川の世界で神が笑う。
余程面白いことがあったらしい。

「覗き見とは相変わらず趣味が悪いですね」

白衣の男が言う。

「おや、帰って来てたのかい?」

「ええ、今さっき。それで、どうやら約束は守ってもらえた様ですね」

「ああ、もちろんさ!神たるもの約束を違えるようでは神の名が廃るからね!」

軽々しく神が答える。

「君は僕の頼みを聞いてくれた。そして僕は君の願いを叶えた。魔王を退治した者には神が願いを叶える。約束通りだっただろう?」

「ええ、本当に。ですが、一つ聞いておきたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」

白衣の男は神妙な顔をしながら問いかかる。

「それは内容によるかなー、まあ、聞いてから判断するよ」

「では、彼は先代の魔王でした。あなた様にとって魔王はいては困るもののはず。ではなぜ、生き返らせて欲しいと言う私の願いを聞いていただけたのでしょうか?」

「君、なかなか良い質問だね!それはもちろん功労者の報酬の方を大切にしたからさ」

神は簡単に答える。

「僕からも聞いて良いかな?」

「どうぞ」

「君は、先々代の勇者は、まあ色々あったのだろうけれど、最終的には君の最愛である先々代の魔王を自らの手で葬った」

当時のことを思い出してか白衣の男は苦い表情である。

「今度はその罪滅ぼしからか先代の魔王を育てようとして、そして、結果的に守り切れなかった」

神は淡々と事実を語る。

「君は言った。勇者の役目を完遂して得た、僕が君の願いを叶える約束。願いは先代の魔王を生き返らせることだと」

白衣の男はその通りだと無言で頷く。

「ではなぜ、君の愛した先々代の魔王ではなく、先代の魔王を生き返らせることを選んだのかな?」

「なかなかエグい事を聞いてきますね…」

白衣の男は心底そう思う。

「君の方こそなかなかだよ?」

神は飄々と応える。
そしてまあいいか、と興味を失ったようであった。
まあ、そんなことよりも、と神は続ける。

「君はこれからどうするつもりだい?勇者を全うして神の、僕の加護を失い、そして先代の皇帝によって掛けられた魂への呪いのせいで寿命もあと僅かだ、あと1時間といったところかな」

沈黙が続く。と、白衣の男が口を開いた。

「流石ですね…。見抜かれておりましたか」

「うん、だがそうでもないさ」

「このままいけば確実に妹は弟子によって殺されるでしょう。知っての通りそれは私の望むところではありません」

「でも君の寿命はもう少しだ」

「なので…こうします」

白衣の男の目が黒く染まる。そして周囲を闇が包むとそこに白衣の男はいなかった。

「なるほど、なるほど。何かあるとは思っていたけどまさかそうくるとはね、どうりで僕に見抜けないわけだ」

たまに凄いことするよね、人間って。
と、神は思った。
 




担当:しょうへい



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