『タイトル未定』
第14話
「ここが・・・魔王城都市・・・。」
不死山中腹に掘られたトンネル、魔族にのみ伝わる不死山を抜ける極秘のルート。そのトンネルを抜けると一気に魔王城都市の全容が視界へ飛び込んでくる。
帝国に引け劣らないほどに強大で発達した都市を目の当たりにしたシトリーとフルカスは言葉を失っていた。
「魔王城都市全体の人口は約30万、帝国の半分にも満たないですが、魔族特有の強力な魔力によって独自の発展を遂げてきました。」
言葉を失う2人を見て、フォルネウスが魔王城都市について軽く説明を始める。
「あの中央に見える一際大きな建物が魔王城です。帝国と違い都市を動かす様々なエネルギーは全て魔王城から供給されています。この都市全体が魔王様の魔力によって動いていると言っても過言ではありません。」
確かに魔王城から都市の各部へ光のようなものが伝達されているのが目にとれる。それがこの魔王城都市の風景をより幻想的なものにさせていた。しかしここでシトリーに1つの疑問が浮かぶ。
「だとすると魔王不在の今は誰がエネルギーの供給をしてるんだい?」
「現在は先々代の魔王様が蓄えておいて下さったエネルギーを使用しています。向こう100年はエネルギーが枯渇することは無いと言われています。」
「先々代の魔王ってのはそんなに凄い奴だったのか?」
そう言うとシトリーは兄であるダンタリオンに目をやる。ダンタリオンは少し困ったように微笑みながら答える。
「俺に聞かれても困るな。俺が彼女と最初に会った時、彼女はもうほとんどの魔力を使い切っていたから。」
「先々代の魔王様は歴代魔王の中でも突出して最大の魔力を誇っておりました。もし先々代の魔王様がこれまでの魔王同様に人間界を滅ぼさんとする思想をお持ちであれば、今頃帝国一体は魔王様の右腕1つで荒野と化していたでしょう。しかし、そこまで強大な力を持ちながらも、先々代の魔王様はその魔力のほとんどを、魔の国の発展のためにお使いになられました。この魔王城都市もその全てを先々代の魔王様がお創りになられたと言っても過言ではありません。」
フォルネウスは珍しく少し興奮気味に説明を続ける。
「無論都市を創っただけではありません。現在の魔の国の法を整備したのも先々代の魔王様でした。それまでは同族であっても強きモノ以外を排除する思想が蔓延していましたが、魔王様の圧倒的なパワーが抑止力となり、法整備も滞りなく進みました。」
そこでシトリーが訝し気な表情を見せる。
「っつーことは、今結構ヤバいんじゃないのか?」
フォルネウスは先ほどとは逆にため息を吐きながら頭に手をやる。
「その通りです。我が国は魔王様という強大な抑止力があったからこそ成立していた部分が大きい。今は我々をはじめ先々代魔王様の理念を受け継ぐもの達でなんとか国を運営していますが、元々血の気の多い種族故、地下街の勢力が急速に増えつつあるのも目を逸らせぬ事実です。」
ここでようやくフルカスが口を開く。
「その地下街の勢力は今どれくらいの大きさなのですか?」
「これは、これから向かう皆様の戦意を喪失させかねないので黙っていようと思っていたのですが・・・恐らく現在20万ほどの人数がいると予測されます。」
「半分以上じゃねーか!?」
シトリーは驚きのあまり転びそうになっていた。
「ええ、現状幸いにも私やベリトをはじめ、とりわけ戦闘能力の優れた者がこちらの勢力にいますので戦力では拮抗している状態です。しかし、これ以上人数の差が大きく広がったり、それでなくとも例えばベリト1人でも向こうの勢力に引き抜かれたりすると、たちまち戦力が逆転してしまうかなり危うい状態です。」
「そんなとこに私達はこれから単身乗り込むっつーのか?」
「はい、しかし向こうも下手には打って出てこれないはずです。何故ならシトリーさん、フルカスさん、そしてダンタリオンさん、あなた方は元々我々の勢力ではない。」
そこでダンタリオンが少し考えるような仕草を見せながら口を開く。
「なるほど、我々が仮にやられてしまったところでフォルネウスさんの勢力に痛手は無いということですね。」
「少し言い方は悪いですが、そういうことです。それに加えてあなたたちだけでも地下街の勢力に全壊・・・とはいかないまでも半壊以上のダメージを負わせることは可能です。」
「下手に手を出すと向こうは良くても半壊以上、こっちは最悪、私らが全滅しても戦力的にはフォルネウスを失うだけで済むと・・・。良いように使われたみたいで癪だがアンタも中々ゲスなことをするねぇ。」
シトリーはにやりと口元を歪ませるとフォルネウスに目をやった。
「最悪の場合はそうだというだけで、私としても皆様を死なせるつもりはありません。向こうが玉砕覚悟で突っ込んでくる可能性はもちろんありますが、先に述べた理由から限りなく低いと思って良いでしょう。皆様のおかげで拮抗していた戦力のバランスが崩れた今こそが交渉のチャンスなのです。」
「なるほどね。しかしそれだけ過激な思想を持つ連中がのこのこと交渉の場にあがってくるかね?」
「我々が地下街の勢力増大を阻めなかった最大の要因に類まれなるカリスマ性を持つ指導者の存在があります。しかしそれは逆に指導者さえ交渉に応じさせられれば地下街全体を掌握したも同様の結果となることを意味します。我々はこれからその指導者を捉えるべく動くことになるでしょう。」
そこでフォルネウスが足を止める。一行もそれに合わせて足を止めた。
「あそこにある門が見えますか?」
フォルネウスが指さした方に目をやると、大きな鉄製の扉を携えた門の前に門番が二人ほど立っていた。
「あの門を越えた先に地下街へと繋がる階段があります。シトリーさん、誰にも気付かれないようあの門番二人を無力化することはできますか?」
「え?もうしたけど?」
見るといつの間にか門番が二人とも地面に倒れ込んでいた。
「さ・・・流石です。しかしどうやって?」
「なーに、水の魔法の応用さ。ちょっと陸地で溺れてもらっただけさ。」
「あなただけは本当に敵に回したくはないですね・・・。」
フォルネウスはため息まじりにそう言う。
「報酬次第だねー。」
シトリーは飄々とそう答えた。
「それでは敵地に入ります。我々の目的は敵勢力の指導者の確保。名はカンナという女です。皆様、気を引き締めていきましょう。」
フォルネウスがそう言った直後だった
「その必要はありませんよ。」
鉄製の大きな門が開き、屈強な男を2人引きつれた小柄な女性が現れた。
「ま・・・まさか!?」
シトリーは身構えながら横目でフォルネウスを見る。
「はい、ヤツこそが地下街の指導者、カンナです。」
「なんですかこの魔力は、凄い威圧感だ・・・。」
あまりの威圧感に顔を歪めながらフルカスも戦闘態勢に入る。
「この隠そうともしない魔力・・・初めて魔王と対峙した時を思い出すよ。」
そう言いながらダンタリオンも身構えた。
「あら、リーダーの私自らお出迎え差し上げているというのに、えらく躾のなってない犬をお連れじゃないですか・・・お兄様?」
カンナのその発言に一同は一斉にフォルネウスの方へ視線を向ける。
「すいません。恥ずかしながら地下街勢力の指導者、カンナは私の実の妹なのです。」
担当:会長