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『タイトル未定』

第15話

武力というものの主が魔法に依存している世の中にありながらも剣や弓といった武器術、相手を捌き組み伏せ時には逃げ果せる為の体術、そういった技術は存在している。

それは何故か...答えは明白、魔力に個人差があるからである。

誰しも容易く宙を浮けるわけでは無いし、生み出した炎一つで大軍を焼き払える訳でもない。

「強力な魔力の持ち主に脆弱な魔力でも決定打を与える手段」、武器とはそのように進化してきた。


フォルネウスも自身の魔法の中で、とりわけ水の剣の練度を高め、大陸北部にも噂される程の実力者となった。

そうせざるを得なかったのは、眼前で腕を組み不敵に微笑む実妹...自身の才能を遥かに凌駕するカンナの存在があったからである。


「お兄様、今回はどのようなご用件で?」


「お前達地下勢力との和解、それだけだ」


「お断りします。北部の人間が為してきた所業、我々がどれ程虐げられてきたと思っているのですか。ただ『勇者』と騙る者が大陸南部に侵攻し、我らが王を討ち、国を崩壊手前まで傾かせ...古来より何度この様な仕打ちを受けてきたというのか。挙句の果てには、連れてきた犬まで北部の者とは...流石に呆れ果ててしまいましたよ」


「我々憎しというのは本当のようですね」


カンナにもフォルネウスにも聞こえない声量でフルカスが呟く。

ダンタリオンもそれに同意する。


「ふむ、北部の人間全てが憎悪の対象になっているんだろうな。そして北部の人間も魔王を討つことに疑いを持っていない。この世の中は『あそこに悪い奴が居ますよ、やっつけなきゃ!』が当たり前になっている。もちろん、北部住人に被害を与えた連中も少なからず居たが、そんなもの北部に蔓延る野盗や近隣諸国を脅かす今の帝国だって大差は無い」


シトリーが続けた。


「つまりこの世のシステム自体がおかしい、そう、いの一番に思い立ったのが兄貴と先々代魔王なんだな」


ダンタリオンがそれに頷く。


「勇者だから魔王を倒さなきゃいけない、魔王だから倒される、もしくは全力で勇者を退けなければいけない。いつからそうなったのか定かじゃないが、それがまかり通る世の中だから、魔王の下で生きている人々はこの世で最底辺の連中だってことになる」


フルカスがカンナ達の方を見やる。


「だから彼女達はそんな状況を打破しようとしてるんですね」


「少し考え方が凝り固まってるけどね...けど、理解を示してくれそうな人も居るようだ」


カンナの両脇に立つ男の片側がこちらを見ている。

男は屈強な肉体を覆い隠す様に全身にタキシードを纏っていた。

裏を返せばタキシードでも隠れない程の肉体なのだが...それ以上に目を引く頭は獅子そのものだった。

どうやら魔族の外見も人間と大差無いという認識は、そろそろ改めなければならないようだ。


獅子頭が間髪入れずカンナに耳打ちする。


「カンナ殿、人間達の話を『聴いて』いましたが、この者達の思想は...」


しばし塾考した様子を見せた後、カンナが頷く。


「...なるほど、サブナック卿、承知しました」


サブナック卿と呼ばれたその獅子頭がすっと身を引くと、カンナが身をずいと前に出した。


「取引の価値ありと判断しました。場所を変えます。両脇の2人、彼らと戦い、勝つことが出来ればお兄様達の話を伺いましょう」





地下街に入り、随分経つ。

カンナ達はすたすたと前を歩き、フォルネウス達は無言でその後をついていた。

シトリーがフォルネウスに声を掛ける。


「さっきの話なんだが、あの両脇のはどれ程のもんなんだ?」


フォルネウスが頭をかきながらうめく。


「20万人を半壊させた方がまだ話が早かったかもしれません。魔の国も格差社会であり、古来より6家の当主が魔王様近辺の要職についていました。私とベリトがその一つ...そして残りの4家の当主が現在妹の勢力下であり、両脇の2人もまたその当主です」


フルカスが冷や汗をかく。


「つまり、フォルネウスさんと同等の方々だと...」


フォルネウスが首を横に振った。


「いえ、先程皆さんの話を聞いていた男、サブナック卿。彼は魔の国でも『単純な戦闘能力』では文句無しに最強の男です。風の魔力で遠方の音や匂いを感知する。使える魔法はそれだけ。しかし、持ち前の筋力・機動力が尋常では無い。武器を持たせれば、その練度も凄まじい。一度補足されれば、瞬く間に仕留められる」


さらにフォルネウスは続ける。


「もう一人、豹頭の男がいますね...彼がオセ卿。私は水の剣を使いますが、あくまで水の柔軟性を活かした搦め手。彼の剣技には遠く及びません。私は彼から剣術を学び、魔法を絡めてようやく今の地位を保てています」


シトリーが溜息をつく。


「そんな化け物共を相手にして、ウチらに勝算はあるのかい?」


「分かりません。我々の頑張り、そして妹がどんな捻くれたルールを提示してくるか...それ次第ですね」


どうやら目的地に着いたようだ。

古臭い書物に挿絵で載っていそうな闘技場、眼前にはそれが広がっていた。







担当:ミッキー



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