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『タイトル未定』

第18話

でかい…。
サブナック卿と対峙したダンタリオンが抱いた感想はあまりにもシンプルなものだった。

それもそのはず、目の前に立つ獅子頭の男の身の丈は優に2mを超える。その身体は無駄のない筋肉に覆われておりその様はまるで鎧のようにも思えた。

ただそれだけではない、サブナック卿の纏う気迫のようなものが大きなプレッシャーとなりダンタリオンを襲う。

蛇に睨まれた蛙、いや大蛇に睨まれたハツカネズミと言うべきか、ダンタリオンは今のままでは目の前の男に手も足も出せないことを瞬時に察した。

「これ、俺勝ち目ないんじゃないの?降参することってできないのかな?」

ダンタリオンは少しため息交じりにそう言う。それに対してサブナック卿が静かに口を開く。

「優れた戦士同士の決闘は対峙した瞬間に決すると聞く。瞬時に相手の力量を測り雌雄を決するからだ。確かに現段階では俺がお前に負けるとは思えん。戦力差は歴然だ。」

そこでサブナック卿はゆっくりとダンタリオンに歩み寄りながら続ける。

「しかし、お前は曲がりなりにも時の勇者を務めた男、そして先々代の魔王をその中に宿した男、この程度の力量なわけがあるまい。何を隠しているのか知らんが、何かを隠しながら、何かを守りながら闘っても到底俺には勝てんぞ。」

サブナック卿に目の前まで歩み寄られたダンタリオンはやれやれと両手を上げると大きなため息を吐いた。

「もとよりこの身体で最後まで通用するとは思っていなかったけど、こんなに早い段階で通用しなくなるとは思ってなかったよ。」

そう言うとダンタリオンは気だるそうに片手を上げると詠唱を始めた。するとみるみるうちに辺りが暗くなり、そして一筋の雷がサブナック卿の背後に落ちる。

「貴様、何を…。」

サブナック卿は目の前のダンタリオンにそう言い掛けると背後から禍々しいプレッシャーを感じすぐさま振り向いた。そこには金色の瞳を携えたダンタリオンがいた。

「あれは…どういうことですか!?ダンタリオンさんが…2人?」

観客席で目を覚ましたフルカスは目の前に広がる光景に目を疑っている。

「私にもわかんねぇ。でもあのクソ兄貴、ずいぶん弱っちくなっちまったと思っていたけどやっぱり裏があったか。」

シトリーは先に負った傷を押さえながらも闘技場の光景を見て妙に納得した風にそう呟いた。

「大方、今まで私らと行動を共にしていた、あのサブナックの前に立っているのすら泥人形だったんだろうよ。そんでもって漸く本物の兄貴が登場したってわけだろう。」

「待って下さい!泥人形って術者の1/10も力を出せないから、偵察や陽動にしか使えないって…。」

「あぁ、だから私も気付かなかった。少なくとも今まで私らと行動した兄貴も私とまではいかないが少なくともフルカス、お前と同等の力はあったからな。」

シトリーは、強烈なプレッシャーを放ちながら金色の目でサブナックを捉えて離さないダンタリオンをじっと見つめる。

「少しは私も強くなっていたと思っていたんだがな、兄貴…やっぱり私は兄貴を超えてはいなかったか。」


一方その頃カンナ陣営でも、カンナがその様子を神妙な面持ちで見つめていた。

『・・・あら、そちらにも少しはできる方がおられますのね。』

先刻、シトリーへ放った蹴りをダンタリオンに防がれた時に自身が発した言葉を頭の中で反芻する。確かにあの時、このダンタリオンという男は自身に届きかねない力を有した者だと感じた。称賛の意味も込めて放った言葉だった。それが、ただの泥人形だったなど思いもしていなかった。

「オセ…あなたはあのダンタリオンという男、どう見ます?」

カンナは隣で同じくこの状況を見ていたオセに問う。

「うん、難しいことはわかんねぇが、俺じゃまず勝てない。隙がないってレベルじゃねぇぞアレは。どう攻め込むイメージをしても3手先には俺が死んでる。」

オセは冷や汗を垂らしながら闘技場から目を離せなくなっていた。カンナと目を合わせることもなく、ただただ闘技場の一点を見つめながらそう答えた。

「サブナックは、勝てるのでしょうか。」

カンナは尚も質問を続ける。それが無意味なことはわかっている。ただ何か喋ってないと何かに呑まれてしまいそうな焦燥感を感じていた。

「それもわかんねぇ、サブナックの旦那と直接やり合ったことがねぇからな。ただしこれまで同様殺す気なしで闘っちゃ瞬殺されるのが落ちだろうな。」

まさか、ここまで苦戦を強いられるとは思っていなかった。ここで兄に自分達の力を見せつけ、あわよくば兄をこちらの陣営に引き込み、一気に地下勢力の拡大を計るはずだった。そのために相手を殺さない程度に叩きのめす予定だったのだが…。

「サブナック!もう何も考えることはありません。相手を殺す気で、全力で立ち向かいなさい!」

カンナは気付くと闘技場のサブナックに向けてそう叫んでいた。






担当:会長



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