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『タイトル未定』

第19話

「サブナック!もう何も考えることはありません。相手を殺す気で、全力で立ち向かいなさい!」

カンナが自身に向けた声が遠くに聞こえる。未だにダンタリオンから自身に向けて発せられているプレッシャーに抗うことに必死で身動き1つ取れていない。遠くに聞こえるカンナの声よりずっと近く、自分の死を何度も何度も繰り返しイメージさせられていた。動けば死ぬ…動かなくとも死ぬ…。この状況を打破すべく、何千通り、何万通りもの行動パターンを瞬時にイメージするのだが、どれだけイメージをしても自身の死を免れることはできなかった。ただ1通りのパターンを除いて。

降参…ここで自身が膝を折り両手を挙げて降参を宣言すれば、それ以上の攻撃を加えてくる相手ではないことはこれまでの言動を見れば明らかだった。ただしそれは、カンナ率いる我々地下勢力の敗北を意味することになり、それは、あの日誓ったカンナへの忠誠を破ることを意味した。

「カンナ殿…俺は…」

サブナックは目線だけを動かしてカンナに目をやる。カンナはこれまで見せたことのない涙を一筋流してこっちを見ていた。

「サブナック!もういいのです。あなたを失いたくありません。降参しましょう。」

彼女にも今のこの圧倒的に不利な戦況がわからないはずがない、合理的な判断をすれば降参するのが最適解だということも痛いほどわかる。だが俺には彼女が降参を宣言することがどれだけ無念かわかるのだ。わかってしまうのだ。彼女が自身の夢と野望のために、どれだけの辛酸を嘗めてきたのか知っているから…。


・・・

・・




ほんの20年前のことだ、魔王様が突然消息を経ってから幾ばくかの月日が過ぎ去った。未だ魔王様を失った我が国の混乱は収まることなく、6家当主として魔王軍の指揮にあたっていた俺は睡眠時間も満足に確保できない日々を送っていた。今日も各地から上がる地下勢力と思われる武装集団による襲撃の報告書に目を通していると、すごい勢いでドアをノックする音が聞こえ軽く溜息を漏らしてしまう。

「入れ…。」

そう言うと顔色を変えた近衛兵が部屋に飛び込んでくる。

「サブナック様!! 至急お伝えしたいことが!!」

「いいから落ち着け、ドアを開けたら閉めろ。私は今疲れているんだ。あまり大きな声を出すな。」

俺は頭を抱えると、静かな声で近衛兵を諭した。

「ですが、事態は一刻を争う状況です!!」

「何があった?」

「先日地下勢力の実態調査に乗り出したオセ卿から書状が届きまして…」

そう言うと近衛兵は1通の書状を持ち読み上げようとした。俺はすぐさまその書状を取り上げる。

「お前のでかい声で読み上げられると頭に響く。目を通しておくから下がって良いぞ。」

そう言うと俺は自身の部屋におかれた大きな椅子に深く腰掛け書状に目をやった。


・・・
サブナックへ

元気してっかー?お前の堅ーい頭のことだから今の現状に頭抱えて右往左往してるんだろうことは容易に想像できるんだが、少しは休んどかないとオーバヒートしちまうぞ。

さて、俺は俺で地下勢力の実態を調査してたんだが、2つ残念なお知らせがある。

まず1つ。消息を絶っていた6家当主の2人、フランチェスカとダリルだがこいつら地下勢力に寝返ってやがったぞ。国民の半数近くを持ってかれて6家当主も2人持ってかれたとなると、いよいよヤバいんじゃないかと思うぜ。

そして2つめ。俺も地下勢力に寝返ることにしましたー。
前は単純に魔王様の強さに憧れて、その強さに近づくために魔王軍に加担していたがどうだ?今の弱体した魔王軍に加担して果たして強さを追い求めることは可能か?内政や事務仕事に追われて純粋に強さに磨きをかけることができるか?答えはNOだろう?

魔王様には義理立てがあったから、これまでは魔王軍に加担してたけど消えちまった人にいつまでも義理立てする理由もねぇ。俺は俺でやりたいようにすることに決めたよ。

サブナック、お前はどうだ?
俺はお前とフォルネウスは6家当主で俺の上をいく逸材だと思っている。中でもサブナックお前は純粋に強さを追い求める闘士だと認識しているけど間違いだったか?

悪いことは言わねぇ。お前はそこで内政や事務仕事を抱えるようなヤツじゃねぇ。俺と一緒に地下勢力で純粋に強さを追い求めてみねぇか?

返事はいらねぇ。どっちにしてもお前はここに来る以外の選択肢はないからな。ここに来た時に返事をきかせてくれ。
・・・


「はぁ…。面倒ごとを増やしやがって。」

書状を目にし更に痛んできた頭に手をやると、俺はこれから待ち受けるであろう戦闘に備えて少し眠ることに決めた。





担当:会長



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