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『タイトル未定』

第21話

甘い、この程度か。


俺に向かって駆け出すカンナを見据え、俺は率直にそう思っていた。確かにスピードは凄まじい。一般人ならば目で捉えることも難しいであろう。そして恐らく体躯からは想像できないほどのパワーを秘めていることも対峙した時点でわかっていた。


だがそれだけ。到底ここまで鍛え上げた俺の戦闘力には届かない。


俺は自身に向けて放たれたカンナの回し蹴りをいとも容易く躱すとがら空きになったカンナの腹部を右手で一突き。串刺しにしてやった。


「ガハッ…」


カンナの口から出た血と胃液を頬に浴びながら、俺は串刺しにしたカンナを振り払い壁に叩きつけた。いくら地下勢力の指導者とは言え所詮は若い女。俺の前では無力に等しい。


「オセ、強さを磨くのではなかったのか。何故、このような矮小な指導者に付き従うことを決めたんだ。お前らしくない。」


俺は目の前で腕を組み不気味に微笑むオセに向かって言った。そう、あのオセが強さを磨くといって付き従った意味、それについてもう少し思慮深く考えていれば良かったのかもしれない。いや…思慮深く考えられていたとしても結果は変わらなかっただろうが…。


次の瞬間、俺は右わき腹に衝撃を感じたかと思うと反対方向の壁に叩きつけられていた。衝撃で崩れてきた瓦礫を取り除きながら前方を見ると、そこには不敵な笑みを浮かべたカンナが立っていた。腹に開けたはずの穴は既に塞がっていた。


「なんでだ…。確かにあの一撃でお前の息の根は止めたはず。」


「何故かはまだお答えできませんが、目の前で起きていることだけが事実です。あなたが殺したはずの私は無傷で、あなたは瓦礫に埋もれてまだ立ち上がることもできていない。」


「確かにそうだな。俺としたことがとんだ無礼を働いてしまったようだ。女だと思い多少油断してしまったが、ここからは全力で参らせてもらう。」


そう言うと一気に瓦礫を跳ね除けカンナとの距離を詰めた。腹が駄目なら顔を吹き飛ばすまで、古今東西どこを見ても顔を吹き飛ばされて生きている者なんていやしない。


俺は距離を詰めた勢いも乗せて渾身の一発をカンナの顔目掛けて放った。確かな感触と嫌な音を伴いカンナの身体は吹き飛ぶ。だがここで終わらない、俺は吹き飛んだカンナの身体を追い越し受け止め、そのまま床に叩きつける。変形し歪んだカンナの頭を更に拳で叩き潰す。


2発、3発、4発。5発目にしてカンナの胴体と顔が引きちぎれて離れた。確実に殺った。そのはずなのだが…次の瞬間には千切れたカンナの胴体と頭、そして飛び散った血が全て蒸発し霧のようになり一カ所に集まった。そして霧が晴れて出てきたのは無傷の状態のカンナだった。


「そんな…馬鹿な…。」



「言ったでしょう。目の前で起こっていることだけが事実。あなたがどのような常識をお持ちで、ここで今起こったことがどれだけ常識外れのことだったとしても、ここで起こっていることだけが事実なのです。違いますか?」


カンナはそう言うと両手を前に出す。女性らしい細い腕と指だ。しかし次の瞬間、その指から獣のような鋭い爪が突き出した。


「あなたの常識を覆すのはまだまだこれからです。今度はこちらから攻撃して差し上げましょう。」


そう言うとカンナが目の前から消えた。先ほど向かってきた時のスピードはフェイクだったのだろうか。俺の目でも捉えられないほどのスピードで駆け出したカンナは次の瞬間には背後に立っていた。


俺はとっさに背後を振り返ろうとしたのだが


「遅いです。」


そういうとカンナの拳が俺の背中を捉えた。スピードも去ることながら驚くべきはそのパワーだった。その細い身体の何処にそんなパワーが秘められているのかと思うほどの衝撃。筋肉の鎧を以ってしてもその衝撃を吸収することは叶わず俺は前方に吹き飛ばされた。


そこからは防戦一方だった。スピードに翻弄され、パワーで圧倒され、たまに当たるこちらの攻撃も無効化され、勝ち目など無かった。いつしか俺は床に仰向けになり立ち上がる体力も残されていない状態まで追い込まれていた。


そんな俺をにこやかな表情で見下ろすカンナ。俺が死を覚悟したその時だった。


「少し昔話をしましょう。」


そう言って唐突にカンナの話しが始まった。







担当:会長



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