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『タイトル未定』

第22話


まずは私の身の上から話さないといけませんね。私の父はイリアス、そして母はカッサンドラ。ここまで言えばあなたならわかるはずですよね。そう、私は6家の1つアレクシア家の生まれです。現在の当主フォルネウスは私の実兄にあたります。

そしてここまで言えばお分かりでしょうが、私の両親は北の国の暴漢によって無惨な殺され方をしました。実は私はあの場にいたのです。幼かった私は物陰に隠れて怯えながらその様子を見ていることしかできませんでした…。私が11歳の時のことです。

あの時の恨みが今の私を作っていると言っても過言ではありません。

知らせを聞いて急遽奉仕に出ていた魔王城から帰ってきた兄はそれからアレクシア家を継ぐために忙しない毎日を送っていました。その中で私のことも気に掛けてくれていましたが、私はとうとう胸の中に渦巻く悲しみや悔しさ、そして恨みを抑えきれなくなってきていました。

このままでは兄や家の者に迷惑をかけてしまう。そう感じた私は両親が殺されてから丁度1年後、アレクシア家を後にしました。

それからどうやって生きてきたかは正直思い出したくもありません。残飯を漁ったり、多少魔法には覚えがありましたから、私を見て襲い掛かってくる浮浪者を焼き殺しそいつの肉を喰らったこともあります。この国を彷徨いながら、どうすれば北の国へ復讐ができるのか、それだけを考える毎日でした。

そんな生活が5年も続いたある日、私はある噂を耳にしました。不死山中の廃墟に吸血鬼が棲み付いたと…。正直眉唾物の噂だと思っていました。御伽噺にしか出てこない空想上の妖。そんな存在すら危ういものがいるわけがないと。

ただ、もしもその噂が本当で吸血鬼が実在するのだとしたら…。その力をもってすれば北の国への復讐も叶うのではないか。そう考えました。その頃の私は北の国への復讐心だけを原動力に動いていました。

十中八九眉唾物であろう噂にすがり山中とはいえ不死山に単身で入山するほどの復讐心です。

結果として噂は本当でした。2000年は生きていると豪語したその吸血鬼は私を屋敷に招き入れ卑怯にも私が寝ている隙に首元に喰らい付き血を吸い始めました。私が見た目通りか弱い女性であれば血を吸いつくされて死んでいたのでしょうが相手が悪かったですね。

私は血を吸われたのを確認するとすぐさまその吸血鬼を跳ね除けました。

吸血鬼に血を吸われると自身も吸血鬼になる。その噂もどうやら本当だったようです。すぐさま自分の細胞が再生と自壊を繰り返しながら吸血鬼のものへと変貌していくのを感じました。

それは想像を絶する痛みです。体中の細胞が一気に弾け飛びしかし次の瞬間には再生し元通りになっている、その繰り返しなのですから激痛が走り続けて当然ですよね。少し気を抜けば意識が遠のきそうなほどの痛みでしたが耐える他ありませんでした。

何せそこで意識を飛ばそうものなら目の前に立つオリジナルの吸血鬼に瞬殺されるのは目に見えていますから。

私はそんな激痛に耐えながらも伸びてきた八重歯で吸血鬼の首元に喰らい付きヤツの血を一滴残らず吸いつくしてやりました。

ただの外傷であれば立ちどころに再生することから吸血鬼は不死として恐れられていましたがそれも全て血の成せる業。その血を吸いつくしてしまえば吸血鬼は復活する術を持ちません。

私はオリジナルの吸血鬼の血を吸いつくすことでこの世界で恐らく唯一の吸血鬼へと成ったのです。

しかしそれだけではまだ足りません。いくら不死の吸血鬼と言えど、攻撃面においては貧弱です。加えて日に当たれない、銀に弱いなど弱点も多かったのです。私は自身の復讐を果たすために吸血鬼を超越した存在にならなければならなかった。

そこで私は妙案を思いついたのです。確か魔王城の地下牢獄に吸血鬼とは犬猿の仲だといわれ、更に自身の細胞を感染させられる能力をもった種族の末裔がいたはずだと。

そう、人狼です。

私は魔王城に忍び込み人狼と相対しました。わざと攻撃を1撃だけ喰らい魔法で人狼を焼き尽くすとすぐさま細胞のせめぎ合いが始まりました。新しく入ってきた人狼の細胞と自身の吸血鬼の細胞が互いに殺し合いと再生を繰り返します。

吸血鬼に成った時の非ではない痛みが全身を襲います。一晩中、気を抜けば破裂してしまいそうな身体を抑え込みながら痛みに耐えました。どんな屈強な戦士でも耐えられるはずもないその苦行に耐えられた理由はただ1つ、北の国への復讐心です。

そして夜が明ける頃ついに私の中で吸血鬼と人狼の細胞が融合に成功しました。恐らくこの世界で初めて人狼吸血鬼と成った私の前に敵などいませんでした。

そこからはあなたもご存知の通り、どんな相手も力でねじ伏せながら地下勢力を拡大させていったのです。北の国への復讐心、それは今も衰えていません。それと同時に私はこの魔の国が好きなのです。お父様、お母様がいたこの魔の国が…。

・・・
・・

「私の北の国への復讐が成し得た暁には、私はこの力を魔の国の発展に使うつもりです。お父様やお母様が作りたかった国をこの手で…。」


そこでカンナは仰向けになって倒れる俺の横に跪いた。


「どうか…どうか私の夢のために協力して頂けないでしょうか、お願いします。」


俺はそんなカンナを見てもう声にもならない声で言った。


「無理だから殺せと言ったらどうする?」


「殺しません。何度だって私に立ち向かって来て下さい。その度に私はあなたを屈服させ、何度だってお願いして見せます。」


そう言うとカンナはにっこりと微笑んだ。


「はは…あなたには叶わないな。わかった。あなたの夢とやらに付き合ってみるのも面白いかもしれぬ。」


俺がカンナに忠誠を誓った瞬間だった。







担当:会長



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