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『タイトル未定』

第2話
 

第二話 「始動」

二次元禁止法案が可決されると、テレビ・新聞・週刊誌など多くのマスメディアは挙ってこれを大きく取り上げ、連日のように報道した。取り上げ方は様々で、この法案に是か非かを討論させるものもあれば、ニートの暮らしぶりや彼らの行動規範について面白おかしく誇張気味に紹介する番組もあった。マスメディアは一応対外的な姿勢としては中立であるようにみせようと努力はしていたが、実質的にはニートを現代日本社会の病とみなし、その病気の発生源としてアニメやゲームなどの二次元文化があるというような趣旨の報道をする所が多くを占めるような状態であった。

「ニートというのはね、まさに社会の癌なんですよ。悪性腫瘍。そのままにしとくと犯罪は増えるし国力は衰退するし日本はめちゃくちゃになりますよ。だからたとえ荒療治になっても何とかして治さなければならんのです。今回の二次元禁止法案でも俺から言わせればまだ甘いくらいだよ!!」

やや語気を強めてそう語るのは、その歯に衣着せない物言いで目下人気急上昇中のコメンテーター、流川だ。

「ほんとにね、これからの世代を背負っていく若い世代がね、こんな調子じゃいかんですよ。俺が若いころなんていうのは--------」

「・・・あほらし。」

と感情のない声でひとりごちたのは戸坂達也だ。彼の黒髪は鈍く光り、髪型は寝癖のように跳ね、その瞳はまるで何もかもに嫌気がさしているかのように鈍く沈んでいた。

「だいたい昔っから日本はもう滅茶苦茶になってただろ・・・。」

ため息とともにそう言葉を紡ぐと、もう完全に興味をなくしたかのように、戸坂は椅子から立ち上がり、ベッドに力なく横たわった。しばらく死んだように寝転がった後、彼はのそのそと起き上がり、ベッドの下から一冊のマンガを取り出しパラパラとめくっていった。
取り出したマンガの内容はなよっとした少年が突然超能力に目覚め、巨悪に立ち向かうという少年誌などで結構ありそうなものだった。

「なんでこんなのがおもしろかったんだろ・・・。」

元々戸坂は大のマンガ好きで、幼少期から本棚はマンガで埋め尽くされていた。しかも読み終えた本は全てその物語構成や展開、今後の展望などについて自身の評価をノートにまとめており、周囲からは漫画狂と呼ばれることさえあった。しかしその情熱も時と共に消え失せ、今ではその欠片すら見受けられない。二次元禁止法案が可決され、マンガの努力義務的廃棄が各家庭に課せられたときも戸坂は躊躇せず進んで廃棄していった。後になって、母親からは逆上して暴れ出すかと思っていたのに肩すかしをくらったようだという有難いお言葉を頂いたくらいだ。二次元禁止法案に際し、戸坂は全部廃棄をするつもりだったのだが、何故かこの一冊だけは手元に残してしまっていた。何故そのようなことをしたのかは本人もよくはわからない。

「疲れた。」

とつまらなそうにぽつりと言うと漫画をもとの場所へ押し込み、再びベッドへ倒れ込んだ。その時彼のスマホに着信がきた。その表示名は「アホ」。そのまま出ないでやろうかと思ったが、彼に残されたわずかばかりの良心が押しとどめた。

「何?」

とまるでめんどくさいキャッチーにでも絡まれたかのような声色で言う戸坂。

「出るのおせーよ!あ、ひょっとしてお楽しみ中だったんか?邪魔してごめんな!」

と大声早口でまくしたてるのは戸坂の悪友、皆実だ。戸坂とは正反対でやたら声が大きく、溌剌としている。

「切るぞ。」

「待てって今回はちゃんと用があるんだから!業務連絡業務連絡。第1283回円卓会議をこれからすぐ行うからダッシュで来るように!話題は件のクソ法案をどうするか!会議に遅れたら俺推薦の神クソゲー24時間耐久レースだからな!」

とマシンガンのようにまくしたてると、皆実は返答も待たず一方的に通話を終了した。

「相変わらずうるせえ・・・。」
と疲れ切ったように心の中で呟く戸坂。

「だいたい業務連絡って・・・俺たち働いてねーじゃん・・・。」
と自虐風苦笑交じりにそう言うと、戸坂は適当に服をひっつかみ、重い扉を開け放った。
    






担当:ボーイ


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